江戸時代に街道が整備されたことは知られているが、それにあわせてさまざまなタイプの旅館が各地に生まれたことはあまり知られていない。本書は、そうした江戸、大坂、京都の当時の宿事情と、そこでの人間模様について書かれた「江戸の旅事情」の入門書である。 江戸時代の宿は利用者や目的別に大名の泊まる本陣、商人の宿泊用の旅籠屋、物見遊山などで利用された飯盛旅籠などに別れていたが、しだいにサービスや利用目的で形態も細分化していく。なかには慈善事業として経営された善根宿や温泉宿などもあり、これらの実態を事細かに紹介している。 また、参勤交代で隣国の大名行列が自領内を通過するときの接待の実態、経費節約のためにチップをけちる大名の話、軽くて持ち運びが便利な「針」がチップ代わりに使われた話なども興味深い。当時から、宿屋間の客引きやサービス競争、グルメツアーなども存在し、反対に忙しい宿では客あしらいが悪かったなど、時代は変わっても宿屋の実態はさほど変わらないことを指摘している点には説得力がある。 ちなみに旅行する側の事情についても語られており、初期は商用などが主だったが、後期になるにつれて寺社参詣の旅などが増えていくことがよくわかる。まさに時代を超越した旅行ガイドといえよう。(鏑木隆一郎)
平凡社
江戸庶民の旅―旅のかたち・関所と女 (平凡社新書) 江戸の旅文化 (岩波新書) 伊勢詣と江戸の旅 (文春新書) 江戸の旅人―大名から逃亡者まで30人の旅 (集英社文庫) 絵図に見る伊勢参り
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